建設現場に入るにはいくつかの制約があり、万が一怠ると、現場への入場ができなくなるだけでなく、仕事ももらえなくなる可能性が大きくなります。
その制約とは国土交通省発出の
- 国民健康保険(会社員の方は協会けんぽや組合健保)
- 国民年金(会社員の方は厚生年金)
- 労災保険(特別加入)
です。
国民健康保険と国民年金は「国民皆保険制度」により、強制加入(強制的に保険へ加入)ですが、労災保険特別加入は、制度上、任意保険(自分で加入するかどうかを選択可能)なため、加入するのを忘れてしまう方がいます。
一人親方が現場で働くうえで、加入が欠かせないとされる、特別加入の労災保険。
「労災保険に入っていないと現場に入れない」と言われて、急いで手続きをする方も少なくありません。
特に、労災保険加入は、建設現場で働くためのパスポートのようなものでもあります。
でも、本来はそれでだけではありません。
もっと大切な理由があります。その理由をご説明します。
【業務災害発生】労災保険へ入っておけば良かった…ではもう遅い
一人親方やフリーランス、個人事業主の方は、会社員(被雇用者)とは違い、本人が加入すべき保険に入っていなかった時は、国からの補償が受けられなくなってしまします。
建設現場で事故に遭い、仕事ができなくなった時、「入っておけば良かった……」と後悔しても、その時は経済的に貧窮し、もうどうにもならないことが起きる可能性があります。
そうならないためにも、利用できる補償制度やその内容など、知見を深め、加入して備えておくことが大切です。
1.自分だけでなく、家族の経済的損失による生活基盤を守る
2.経済的不安無く、治療や療養に専念できる仕事環境を整える
3.依頼主や元請け、お客様にも安心して仕事を依頼してもらう
生活基盤を守ることは、安心して仕事に専念し、業務遂行ができるということです。依頼する側も、安心ですね。
現場でケガをしてしまった!一人親方は補償されるの?
建設現場で仕事中にケガをしたらどうなるの?
一人親方の場合は、会社員と違って、誰からも守ってもらえないという「避けられない現実」があるんです。
なんだか切ないですが、会社(法人等)の社長や一部の社長と同じ扱いが「一人親方」ですから、受け入れてい行きましょう。
ケガしたところがズキッ!と痛む
ケガしたけど、このくらいなんてことないって、医者に行かないで治療もしない。
後々深刻な後遺症に悩まされる可能性があり、結構相談が多い内容でもあります。
ケガしたところは当然痛いものです。そして、一人親方は「このくらいなんてことないぜ!」って言いがちです。
でも、その痛みをこらえて仕事を継続できればいいのですが、やはり年齢を重ねていくと、後遺症が出てしまうこともしばしば。
やはり、痛みがある以上、全力で仕事するなんて無理ということを、念頭に入れておきましょう。
そもそも「痛み」という感覚は脳が「体に異常があるから、無理をせず休みなさい」とサインを送ってくれているわけです。
動物を飼っている方ならご存知かと思いますが、動物は本能的に、体調が悪くなったりケガをしたりすると、じっと動かずに休んでいます。実は、これこそが本来の正しい対処法なんです。
ひとまず病院に行く
病院へ行きましょう!
こんな映画昔ありましたね。
早く治療を受けて職場に復帰しないと、収入が得られず、生活にも影響が出てしまいます。
病院に着いたら、受付で「仕事中に負ったケガです」と必ず伝えてください。後から労働中のケガだったと判明すると、手続きが複雑になったりトラブルにつながったりする可能性があります。
通常生活における「病気やケガ」で使用する「健康保険」を使うと、治療費の3割は自己負担になりますが、労災保険であれば原則として自己負担「ゼロ」です。
労災保険で治療を受けられるのは、健康保険と同じく「保険診療(社会保険の対象となる範囲内)」に限られますが、入院時の食事代も国が出してくれるという、手厚い補償です。
自分から「個室を使いたい!」これは自己負担になります。他にもテレビを見たり、先進医療や自由診療を受ける場合は、自分で費用を払うことになります。でも、そのような診療を受けるときは、病院から事前にちゃんと説明がありますので安心してください。
ひどい事故!手術と入院を余儀なくされた
軽いケガで仕事はできるというなら、経済的にも問題はありませんが、仕事ができる状態ではなく、また入院も余儀なくされるという場合はどうでしょうか。
建設現場での作業中に膝をケガしてしまい、救急搬送されました。
病院での検査の結果、入院や手術、治療を受けることになったとします。
例えば、膝の関節を人工関節に置き換える必要があると診断された場合は
手術名
人工膝関節置き換え術
平均入院日数:16日
手術費用:約188万円
その他費用
①入院時の初期手続き費用
②治療関連費用
③処方薬費用
④病室差額費用
⑤病院食費用
etc・・・
このように、ケガの内容によっては手術や入院が必要になる場合もあります。こうした医療にかかわる費用は、労災保険に未加入だと全額自己負担となってしまいます。
さらに、業務災害によるケガの場合は、病院で健康保険証を出しても受理されないことがあります。たとえ一時的に使えても、業務災害だと分かった時点で「労災保険」への切り替えが必要になり、さらに未加入なら治療費は全額自己負担になります。
業務災害による治療には「労災保険」のみ利用でき、医療にかかった費用は全額補償されます。
高額療養制度は適用されません
業務災害で入院・治療等を受けた場合は、この社会補償制度の一つである「高額療養制度」の対象にはなりません。
当たり前ですが、労災保険は、国が一部を除く医療にかかわった費用を全額負担してくれるからです。
それでは「高額療養制度」が適用されるのはどういった場面なのでしょうか?
それは、仕事を起因としない「普段の生活」でケガや病気になった場合の医療費です。
たとえ治療などの医療費が高額になっても、その方の収入に合わせ、医療費として支払う金額が決まってます。
その決まった金額以上は、国が補償してくれる制度が「高額療養制度」です。そして利用できる保険は、「国民健康保険」です。
年収の目安(報酬月額の目安) | 1カ月の上限額 | 多数回該当 |
---|---|---|
約1,160万円以上(83万円以上) | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
約770万~1,160万円(53~79万円) | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
約370万~770万円(28~50万円) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
~約370万円(26万円以下) | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
※直近12か月に3回限度額を超えた場合、4回目以降は表右欄の低い定額に軽減されます。
(例)年間の所得370万円を超えて770万円以下の方は
・80,100+(医療費−267,000円)×1%
更に1年以内に3回以上ご利用の方は、4回目からは44,400円だけの支払いです。
その例で見てみると、例えば1ヵ月にかかった費用が300万円の場合、これを上の計算式に当てはめると
・80,100円+(3,000,000円-267,000円)×1%=107,430円/1ヵ月
となります。
一人親方の場合、この年間所得というのは「確定申告」によって決定されます。
社会保険はどちらを利用すればいいのか
医療にかかわる「社会保険制度」は2つありますので、どちらを利用するかですが、判断基準はとても簡単です。
つまりは
・仕事が原因のケガや病気の治療は労災保険を使用
・日常生活でのケガや病気の治療は健康保険を使用
労災保険に加入していないと、業務災害での治療費などが全額自己負担となる恐れがあります。
国民健康保険の「高額療養制度」は労災には適用されません。
退院はしたものの治療は続く
ようやく退院できました!でも、すぐに安心とはいかない。
これが一人親方のつらいところです。
退院した後も、自宅での療養や定期的な通院が続きます。
そのたびにお金がかかります。
その費用はどこから出しますか?貯金を使いますか?それともローンを組みますか?いずれにしても、いつかは払わなければいけないものです。治療やケアはまだまだ続くので退院後も経済的な負担はつきまといます。
今は経済的に余裕があるから大丈夫という方。
それが間違いとは言いませんが、その費用を支払うくらいなら、最初から加入していた方が結果的には安く済みます。
会社員の場合、労働保険(労災保険と雇用保険)は、原則として強制加入であり、保険料支払いは、労災保険は会社が100%負担で、雇用保険は会社と折半で負担されるのが一般的です。そのため、傷病手当金や障害年金の支給、休業時の補償など、会社のサポートが非常に手厚いですし、書類も会社が作成(顧問としている社会保険労務士が代行)してくれます。
一人親方のような事業主(法人などの組織では、社長や役員など)は、会社員のような補償制度がありません。
しかし、特別加入の労災保険に加入しておけば、仕事中のケガなどで療養が必要になった場合でも、国の補償を受けられるため、安心して働くことができます。
おれは大丈夫!をそろそろやめませんか?
ここまで見てきたように、労災事故は想像以上に大きな影響が及びます。大変失礼かとは思いますが、「自分は関係ない」「おれは大丈夫!」と根拠のない思い込みはそろそろ考え直しましょう。
※なぜなら、業務災害で労災保険に入っていて良かった!助かった!という方が多いからです。
労災事故が起きると、一人親方のような事業主にとっては、入院や休業は、経済的にとても深刻な問題になるからです。
人は、自分だけは「ケガもしない。病気にもならない」と思う方向性が必ずあります。
これは心理的な傾向のひとつで、【正常性バイアス】と呼ばれるものです。
「自分は大丈夫だろう」「まだ問題ない」「今回は問題ない」といったように、特に根拠もないまま、自分に都合の悪い現実や情報を避けたり、軽く見積もったりしてしまう、人間特有の心理傾向だといえます。
一人親方の労災保険加入で置き換えてみましょう。
「労災保険加入料金を払いたくない・使わないと無駄だ・手間がかかる」
●加入しなくても「自分だけは問題ないはずだ」
●加入しなくても「自分だけは見つからないはずだ」
●加入しなくても「自分だけはケガはしないはずだ」
こんな感じです。
でも考えてみれば、当然のことです。先のことは誰にも分からないし、そんな不確かなことにお金を出したくない、と考えるのは普通の感覚だと思います。不安になりすぎても疲れちゃいます。
とはいえ
将来、万が一、業務災害に遭ってしまったら、経済的貧窮追い込まれるかもしれない、と事業者なら考えなければいけません。
会社員と違い、仕事を日々こなしていなければ、賃金の補償はだれもしてくれないからです。
東北労災一人親方部会でも、業務災害は日々発生しています。労災事故報告を掲載しておりますので、ぜひご一読ください。
労災事故報告はこちら
https://nisijp631.com/category/accident-report/
まとめ
いかかでしたか?
一人親方のような事業者は、きちんと社会補償に加入していないと、こんなにも補償が手薄だと感じられた方もいらっしゃったと思います。
国は「労働者」に対して手厚い補償制度を設けていますが、一人親方のような事業主や法人の代表者は「労働者に該当しない」という扱いです。
しかしながら、実際には働いてその対価として報酬を稼いでいます。
安心してください。
一人親方のような事業者には、特別に加入できる労災保険制度があります。それが「特別加入の労災保険」です。

東北労災一人親方部会では、労災保険にかかわるすべての申請書類作成を無料で代行しています。
加入や脱退においては「特別加入承認団体」を通じ申請します。
ですから、ほとんどの労災保険取扱団体では、申請書類の作成を代行しています。
特に、労災事故が発生したら、加入している団体や組合にすみやかに労災事故報告を行いましょう。
東北労災一人親方部会は、加入から脱退、労災事故報告の連絡が入れば即座に対応しています。
専門家がスピーディに、しかも「無料」であなたをサポートします。
労災保険の加入・申請手続きに不安がある方は、無料で書類作成代行が可能な〈東北労災一人親方部会〉にご相談ください。

副理事 労災保険コンサルタント
大学卒業の後、XEROX(現富士フィルムビジネスイノベーション)へ入社。新規開拓営業として活動する。38歳の時に人生一度切りとの思いから起業し独立。IT、建設、金融、海事から伝統工芸など多種多様な事業展開。SNSが広まる前から興味を持ち、各業界、特に士業関係からセミナー依頼を多数受ける。現在は政府から承認を受け、特別加入団体を立ち上げ労災関連の相談から事務処理業務全般を行っている。
特技は山菜や木の実を見つけること。アケビは大好物。キノコは好きだが、なぜか椎茸は未だに食べられないのが悩み。
里山に入り山菜取りに夢中になりすぎて遭難しかけ、警察沙汰になったことも。釣り好き花好き動物好き。お酒は少々楽しむ程度。
一人親方は法的には労働者ではないため、労災保険に加入できません。
特別に加入できるようにした制度が特別加入の労災保険。労働者ではない一人親方を、労働災害から守る唯一の手段であることを広めていきたいと思っています。