建設現場で「一人親方」を使う場面は珍しくありません。
しかし、安全配慮義務/使用者責任/安衛法上の元方管理、そして偽装請負の問題は、元請・発注者側の実務対応ひとつでリスクが大きく変わります。

ここでは、労災保険(特別加入)の確認方法契約・指揮命令の線引き現場の安全衛生体制事故時の初動まで、実務で迷いがちな論点をまとめました。

法的根拠は労働契約法5条(安全配慮義務)民法715条(使用者責任)労働安全衛生法(特定元方事業者の義務)等です。

ぜひご覧いただき、参考にしてみてください。

目次

  1. 一人親方の法的位置づけと「元請の責任」の入口
  2. 偽装請負の回避:指揮命令・時間管理・専属性の線引き
    1. チェック項目(偽装請負につながるおそれがあります)
    2. 対策
  3. 労災保険の特別加入:受入れ条件の最低ライン
    1. 実務チェック(入場前)
    2. 給付基礎日額と保険料の考え方
  4. 元請・発注者の「安全衛生の土台」:安衛法の要求事項
    1. 一人親方を含む「現場運営」の実務
  5. 契約と現場ルール:偽装請負を避けつつ安全を確保する
  6. 業務災害が起きたときの初動フロー
  7. よくある誤解と正解(FAQ)
  8. 受入れ前・日々の運用・事故後の3段階チェック
    1. 受入れ前(入場前審査)
    2. 日々の運用(偽装請負・安衛法対応)
    3. 業務災害発生時後(初動〜再発防止)
  9. まとめ

一人親方の法的位置づけと「元請の責任」の入口

一人親方は通常の意味での「労働者」ではないため、一般の労基法・労災法の適用には及びませんでした。
ただし建設現場では、他の請負人の労働者と同様の作業に従事することが多く、安全確保のマネジメントは元請の重大テーマとなります。
厚生労働科学研究成果データベース

労働安全衛生法(安衛法)は、今までは一人親方は労働者ではないため、原則適応ではありませんでした。しかし、令和5年4月1日の省令改正により、有機溶剤、鉛、特化則、石綿、粉じん、酸欠等を含む11省令については事業者が一人親方等にも一定の保護措置を及ぼす義務が明確化されました。
また、建設・造船など混在作業の現場では、元請け(特定元方事業者)が現場全体の安全衛生を統括するルールがあり、下請・協力会社が混在する状況での指導・連絡調整・巡視などが求められます。(安衛法29条・30条)

安全配慮義務(労働契約法5条)は、本来「使用者と労働者」間の義務ですが、実態として指揮命令・設備管理を元請が握るなど「特別な社会的接触」があれば、裁判実務上、元請側の責任が議論され得ます。
また、安衛法とつながる配慮義務において、一人親方への設備・作業・保護具使用の周知や設備稼働の配慮義務があります。
e-Gov 法令検索

使用者責任(民法715条)は、その事業のために他人を使用する者が、第三者へ加えた損害を賠償するという法律です。
同一現場内の業務災害で、第三者(別の一人親方等)が被害に遭った場合、業務災害の要因となる者だけでなく元請・発注者も責任追及されることがあります。
e-Gov 法令検索

契約書で「請負」と書いても、現場実態が労働者的なら、元請のリスクは軽くありません。

偽装請負の回避:指揮命令・時間管理・専属性の線引き

偽装請負とは、形式は請負でも実態は派遣である状態を指し、完全に違法です。チェックすべきは次の5点です。
都道府県労働局所在地一覧

チェック項目(偽装請負につながるおそれがあります)

作業現場や工事現場で作業をさせる上で、安全に仕事ができる環境を整えていたかを問われる法律です。

  1. 出退勤を詳細に管理し、実質的に勤務時間を指定している
  2. 作業手順・方法を逐一指示し、裁量や結果責任の余地がない
  3. 道具・材料・消耗品を全面支給しており、独立性がない
  4. 現場で直接の指揮命令(段取り・優先順位・逐次指示)を発注者が行っている
  5. 専属性が高く、他の現場を断れない(実質的な雇用関係に近い)

対策

  1. 契約は「成果物・出来形・品質基準・検収方法」で管理し、指示は結果(出来高)要件中心にする
  2. 仕様変更の指示は見積提出・双方合意・発注の手続でおこなう
  3. 日当・時間で計算するのではなく、出来高・出来形支払いを基本に(現場慣行に配慮しつつ、成果基準へする)
  4. 現場での指示は職長・調整者を介し、「作業間調整」と「安全衛生上の指示」に限定する

偽装請負については政府も非常に問題視しており、請負契約を書面でしていたとしても、その労働性において「労働者の派遣」と事実上なっていることがあります。
元請け(特定元方事業者)側もこの形を自然と行っているケースが多々見受けられます。
あくまで「一人親方は労働者ではない」ことを頭に入れ、時間的・場所的拘束、作業の指揮命令や時間給での賃金形態をとらないよう気を付けましょう。

労災保険の特別加入:受入れ条件の最低ライン

一人親方は労災保険の特別加入制度に入ることで、業務災害の補償を受けられます。
元請(特定元方事業者)現場入場条件として特別加入証明の提示を徹底しましょう。
制度の根拠・手続・しおりは厚労省資料で確認できます。
厚生労働省

実務チェック(入場前)

  • 特別加入証明書(写):氏名・適用年度・団体名・給付基礎日額を確認
  • 保険料納付(年度更新)の有無
  • 給付基礎日額の妥当性(所得水準に対し適正範囲かどうか)
  • 危険作業の資格:フルハーネス、玉掛け、足場、酸欠、特別教育等の修了証
  • 再下請通知の扱い(元請の統括安全衛生管理下で作業する場合の手続)
    厚生労働

給付基礎日額と保険料の考え方

年間保険料給付基礎日額×365×(特別加入保険料率/1000)+団体経費
最新の保険料率は公表資料で確認することができます。
厚生労働省

選択可能な給付基礎日額は、被雇用者と違い自分の自由意思で決定し、段階制(例:3,500〜25,000円/日、16区分)で、選択額に応じて補償給付額や、もちろん保険料も変わります。
厚生労働省

給付基礎日額の変更は年度更新期間のみですので気をつけましょう。ただし災害発生後は当年度の変更不可が原則です。年度更新前に見直しをしましょう。

元請・発注者の「安全衛生の土台」:安衛法の要求事項

建設現場では特定元方事業者(元請等)に、協議組織の設置、作業間の連絡調整、巡視、教育の指導・援助、工程・配置計画など、安衛法上の具体的措置が課せられます(安衛法30条)。
デジタル庁
さらに、統括安全衛生責任者等の選任(安衛法15条)、安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の体制整備も必要となります。
あんぜんサイト

一人親方を含む「現場運営」の実務

  1. 新規建設現場入場者教育に一人親方も含める(災害事例・現場ルール・保護具・KY手順)
  2. 作業計画の共有化(重機・人の動線、落下・墜落リスク、感電ポイント)
  3. 日常のKY(危険予知・リスクアセス):一人作業でも「声出し・チェックリスト」を推奨(行政資料の推奨例あり)
    都道府県労働局所在地一覧
  4. 資格確認(ロープ高所・玉掛け・特教等は入場前に行う)
    都道府県労働局所在地一覧
  5. 作業間連絡調整(工程変更・段取り替えは必ず職長経由で報告する)
    デジタル庁
  6. 巡視の実施と記録(是正指示→是正完了まで追跡する)
    デジタル庁
  7. 教育の指導・援助(元請主催の安全衛生教育)
    デジタル庁
  8. 再下請の見える化(再下請通知で関係者・連絡経路を明確化)
    厚生労働省

通常に行っていた被雇用者(労働者)に対しての活動に、一人親方やフリーランス等も参加してもらえるようにしましょう。

契約と現場ルール:偽装請負を避けつつ安全を確保する

請負契約書に盛り込むべき条項例

  • (特別加入の確認) 受注者は一人親方の労災保険特別加入を維持を推奨し、証明書の写しを事前提出・更新時再提出する
    厚生労働省
  • (安全衛生遵守) 元請が定める安全衛生規程・現場ルールにに従い、必要な保護具は受注者が準備し、資格が必要な作業は有資格者が行う
    都道府県労働局所在地一覧
  • (成果基準・検収) 仕事の完成・出来形・品質を成果物基準で定義し、日々の細目的な指揮命令は行わず、工程調整・安全衛生指示に限る。
    都道府県労働局所在地一覧
  • (再下請) 再委託時は事前承諾・再下請通知・資格確認を行う
    厚生労働省
  • (事故報告・初動) 労災発生時は直ちに報告し、応急・救急・保全・再発防止までの手順を定める

書面とオペレーションの一致が重要です。契約条項と現場実態が食い違うと、書面の防御力は激減します。

業務災害が起きたときの初動フロー

建設現場での「業務災害」は意図せず起こるもの。また、建設業種は他業種に比べ発生率も高いのが実情です。業務災害が発生したときの手順を明確にしておきましょう。

  1. 救急要請・一次救命二次災害防止(重機停止・通行止め)
  2. 現場長・元方事業者・安全衛生責任者へ即報告/監督署連絡が必要な重大災害の判断
  3. 現場保全・状況記録(写真・図面・関係者メモ・KYカード・巡視記録)
  4. 医療機関連携・労災手続き支援(一人親方の特別加入の様式確認)
  5. 原因分析(ヒヤリハット・リスク評価再実施)→是正・教育
  6. 再発防止策の全協力会社への周知(協議組織で共有)

特別加入の労災保険を申請すると、元請(元方事業者)へ迷惑がかかるから、使わない方が得策ではないかと言われたなど相談があります。
あくまで、特別加入は「一人親方個人が加入するもの」であり、使用するか否かは一人親方個人の判断に委ねましょう。
また、今まで説明してきた基準は元請(元方事業者)の法令義務ですので、義務違反がなければ特段心配することはありませんのでご安心ください。

よくある誤解と正解(FAQ)

Q
一人親方は労働者じゃないから、元請に安全責任はない?
A

誤り。 一人親方は安衛法上の労働者ではありませんが、現場全体の安全衛生管理(特定元方事業者の措置)は元請等に課せられています。実態により安全配慮義務や使用者責任が問題になることがあります。

Q
契約書に「請負」と書けば偽装請負は回避できる?
A

書面だけではできません。 実態として指揮命令・時間管理・道具支給・専属性が強ければ偽装請負と評価されるリスクがあります。成果基準(出来高)での契約運用が必須です。都道府県労働局所在地一覧

Q
特別加入の「給付基礎日額」はいくらにすべき?
A

所得水準に見合う額を基本は選択します。日額×365×料率/1000+団体運営費等で支払う保険料が算出されます。年度更新時の事前申請で変更が可能です(災害前が前提)。厚生労働省
選択範囲は実務上3,500〜25,000円(16区分)が目安です。

Q
新規建設現場入場教育やKYに一人親方は参加しなくてよい?
A

参加させるべきです。 元請の巡視・教育の指導援助・作業間調整は安衛法上の措置です。一人作業のKY手順も行政資料で強く推奨されています。デジタル庁

受入れ前・日々の運用・事故後の3段階チェック

元請(特定元方事業者)は、一人親親方を向かい入れる際には、下記内容を事前にチェックしておきましょう。

受入れ前(入場前審査)

  • 特別加入証明書(年度・団体・給付基礎日額)/資格証の確認
  • 契約書内容は成果物(出来高)基準・検収・再下請条項・安全衛生遵守条項
  • 現場ルール(保護具・立入規制・写真撮影・搬入搬出)を説明・同意
  • 工程・配置計画の共有(安衛法の計画事項)

日々の運用(偽装請負・安衛法対応)

  • 指示は工程調整・安全衛生に限定し、作業方法は受注者の裁量
  • 巡視記録・是正履歴を保存し、TBM・KYを一人親方も実施
  • 作業変更は職長経由で事前報告とし、承認してから作業変更実施
  • 再下請は事前承諾・通知・資格確認

業務災害発生時後(初動〜再発防止)

  • 救命・応急・保全・通報ルートの確認と監督署報告要否の判断
  • 保険確認(特別加入の様式・医療機関連携)
  • 原因分析・是正・教育を協議組織で共有

まとめ

いかがでしたか?
元請(特定元方事業者)や依頼主は、一人親方やフリーランス、自営業者へ、被雇用者(労働者)とある程度の同等の措置が義務つけられているのがお分かりいただけたかと思います。

今では、一人親方の特別加入確認は「入場条件」の最低ラインとなっています。

契約の実務に際しては「成果基準・出来高・検収中心」で、現場実態もそれに合わせましょう。
偽装請負のは、違法であることの認識を持ちましょう。

安衛法の元方措置(協議・連絡調整・巡視・教育支援・計画策定)を運用し、記録を残すことも大事です。

業務災害発生時は、初動・報告・保全・再発防止まで決めておき「迷わない現場」を作りましょう。

以上のことを遵守することにより、双方の意識が高まり、安心・安全な建設現場作りと、社会的ステータスも上がり、仕事に対しての信頼度も上がります。

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